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 もうもうと湯気を立てるコーヒーの蓋を開け、コーヒーフレッシュと砂糖を半分ほど入れる。一個入れるのは甘すぎるが、頭を使った後に糖分をとるのはもう習慣になっている。再び蓋を閉め、まだ熱いそれをゆっくりと啜る。ポケットから携帯を出してメールボックスを開く。授業中、着信があったことには気付いていたが、発信元を確認して返信を諦めた。無駄話のようなメールなら確認して一言返すが、ユウ、鈴木祐介はそういうメールを送る人ではない。そもそも、軽い話をする間柄でなかった。
 開いたメールは想像に反して簡潔だった。いや、ある意味予想通りだったともいえる。ナオの所属する組織のここ最近の動向を彼が聞いてくるということはなにか気になる動きがあるのかもしれない。下手な返信を送ることは出来そうになかった。
 しかし、最近の動向といってもナオの組織はまだ新しくできたばかりで、活動らしい活動は出来ていない。知り合いが入っている組織も似たようなものだと聞く。一応、なにかないかと組織の方に問い合わせてみる。返信を待ちながらコーヒーを一口飲む。淹れたときより大分ぬるくなってしまったが、それが逆にちょうどいい。
 どうせしばらくは暇だろう、と返信を待つ間にさっきまでの講義の復習をする。タブレット端末の所定のページとノートを開く。IT化だなんだと言われて今ではノートすら電子化されて、紙のノートは少数派だ。けれどナオは紙のノートの方が好きだった。さらさらとペンを走らせる感覚、使っているうちにだんだん丸くなっていく芯の先と、柔らかくなっていく黒鉛の線は、到底タブレットとタッチペンでは真似できない。それに、どうせ重要な書類は紙で管理されている。
 大体見終わったあたりで、机の上に置いておいた携帯ががたがたと震えた。うるさいそれをさっさと手に取って着信を確認する。やっぱり、組織の方では何もないらしい。むしろ人手が足りないから来れる時はいつでも来てくれ、とある。ついでのように短く、他の所も似たようなものだと書き添えてあった。予想通りの結果に、しかし満足はできなかった。気落ちしたままユウに返信を入れる。
 しかし、それにしても、どうしてユウはそんなことを聞いてきたのだろう。何かあるのかも、と疑ってはみたものの、結局何もなかった。そして、ユウ自身もそんなことは分かり切っていたはずだ。考えこみながらコーヒーを飲み乾す。
 ラウンジに人が増えてきて、騒がしくなる。これ以上ここで勉強するのは邪魔だろう、と片付けて席を立つ。空になった紙コップにごみをまとめて入れて、ダストボックスに放り込んだ。

 ユウは、携帯を閉じて考え込んでいた。誰に聞いても、今国会議事堂にテロを仕掛けられるようなグループは存在しない。だとしたら、テロを画策しているのは誰なのか。自分たちに濡れ衣を着せようとしているのか、それとも別の思惑で動いているのか。こればっかりは考えても仕方がないと思うのだが、考えずにはいられない。警察か、TPFの情報をひとまずは待つしかないか、とため息をついた。








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